悲愴と憎悪の人喰い屋敷
「ですね…って、俺を助けた相手が言うセリフか?」

さっきまで手を引き闇から脱出させてくれたであろう望月は、俺の言葉に首を傾げる。
そして、後ろを指差し眉をハの字にしながら静かに首を振る。

「いくら僕でも、あそこから助け出すのは不可能ですよ」

望月の口調から恐ろしいものを指している気がして、見たくはなかったが恐々としながら後ろを振り返った。

「なっ!!」

俺は思わず後退する。
そこにはブラックホールのような物体が浮かび、中には沢山の手が蠢いて男や女の悲鳴が聞こえていた。
その一つの手が尻餅を着いた拍子に落ちた俺のハンカチを掴む。
掴んだと思った瞬間に物体は小さくなり跡形もなく消える。
い、今のは何なんだ?
あそこから出てきたって事は、あの空間に俺は居たのか?
真っ暗で見えなかっただけで足元には手が蠢いていた?
生唾を飲み恐怖する俺に、望月が聞いてくる。

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