悲愴と憎悪の人喰い屋敷

屋敷が人を喰う瞬間

階段を足早に駆け下りて俺は辺りを見渡す。
そういえば、見ていなかったから樋口がどっちの方向に行ったのか見当がつかないぞ？
とりあえず、望月に聞いてみるか。
そう思い俺が居間の扉に手を掛けた時、

「きゃああぁぁっ！！」

「！」

キッチンの方から女性の悲鳴が聞こえ、俺は文字通り驚きに身を飛び上がらせる。
な、何だ？
今の恐怖を掻き立てるような悲鳴は。
キッチンにいる、あの黒いゲテモノが出たから叫んだという声じゃなかったぞ。
心臓の音が耳に響くのを感じ、少しずつ俺はキッチンに近づく。
あの声…硝子さんに似ていた気がする。
聞き間違いであって欲しいと思いながら、俺は震える手で扉を押し開く。

「な…っ！」

中に入ると信じられない情景が目の前にあった。
朝だと言うのに室内は霧がかかったように薄暗く、異様な気配をひしひしと感じる。
それ以前に驚いたのは硝子さんがガラス細工の花瓶に、体の半分を吸い込まれている有様だった。