悲愴と憎悪の人喰い屋敷
「た、助けて…っ…北川…くん…助けて!!」

自分の身に何が起こっているのか分からず、驚愕した顔で硝子さんは必死にもがいて助けを求める。
屋敷が人を食べている瞬間を初めて目の辺りにした俺は絶句していたが、今なら助けられると悟り駆け寄った。

「硝子先輩っ!…ぃつぅ!!」

伸ばした手に鋭い痛みを感じて俺は手を引っ込める。

その直後、足元に包丁が突き刺さった。
傷は浅かったが手の甲が斜めに切れて、傷口から出血した血が数滴床に落ちる。
硝子さんを助けさせまいと屋敷の何かが邪魔をしたに違いない。
こんな事くらいで怖気づく俺だと思うなよ!
痛みに堪えながら再び手を伸ばすと、今度は前方から無数の包丁やフォークがゆっくりと浮かび俺を標的にして真っ直ぐ飛んできた。

「うわっ!」

危ないと思ったと同時に反射神経で床に身を伏せると、武器と化した金属たちは後ろの壁にぶつかり騒々しい音を立て床に落ちる。
また攻撃してくるかと警戒して後ろを振り返った時、硝子さんの悲鳴を聞く。

「助け…て…苦しい!い、いやあぁっ!!」

「硝子先輩!」

顔を上げて花瓶を見たときには、硝子さんは飲み込まれ穴は静かに閉じられた。

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