Crazy Love
芹は俺と目が合うと、ほんの一瞬驚いたように表情を強ばらせたが、すぐに笑顔になり、

「服は大丈夫でしたか?」

と、普通に客に対処するように言いながらテーブルの上を拭いた。

「大丈夫です。すいません」

俺もできるだけ普通に見えるように、必死に平静を装う。

「いえいえ」

芹は俺に、3年前と変わらない笑顔を見せてカウンターへと戻っていった。

「感じのいい人だね」
なにも知らない理央が無邪気にそう言った。

「……うん」

俺はタオルで手を拭くと、残っていたアイスコーヒーを一気に飲み干し

「出よう」

と、伝票を手に取り、戸惑う理央をよそに、足早にレジに向かう。

レジにはバイトの女の子がいた。

会計を済ませながら、理央を振り返るフリをして、もう一度カウンターの方に目を向けたが、芹の姿はもう見えなかった。

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