さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
窓から入る風が頬をなで、赤く艶やかな髪の隙間を足早に通り過ぎる。
多くの石造りの建物が整然と立ち並び、街の端には自分たちが通ってきた巨大な門。
それが今は、手の中に入りそうに小さく見える。
さらに遠くに目をやると、青々と一面に広がるヴィシュー湖までもが見渡せた。
高い位置から眺める景色は、
レイラが今まで見てきた世界観を一掃するほどに強烈な印象で、
そのすばらしさは言葉で表せないほどのものだった。
その景色を邪魔する格子が目に入ってさえなお、
レイラはその壮観さに、毎日改めて感動を覚えた。
「どうだい?何か不自由なことはないかい?」
毎日朝一番にレイラの部屋を訪れては、
ソリャンが同じ言葉をかけていく。
「いえ、とてもよくしていただいております」
それは遠慮からくるものではなく、正直な感想だ。
実際、レイラは何人もの侍女に世話をされ、
今までの貧乏暮らしがうそのような贅沢をしている。