さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
「ちょっと、どこ見て歩い、て」
転んだ侍女は自分の不注意を棚に上げ、大きな声を出そうとしてしくじった。
ぶつかった相手が、話題の中心人物であったことに気づき、
二人の歳若い侍女は、お互いに顔を見合わせる。
固まる二人を無視して、男は床に散らばった衣を手早く集めると、
呆然としている侍女の目の前に差し出した。
「失礼した。考え事をしていたので。
お詫びに運ぼう。どこへもって行けばいい?」
「えっ!いえ、いいんです。
レイラ様の護衛をしていらっしゃる方に、そんなことさせるわけには」
ぶつかった方の侍女のわき腹を、もう一人の侍女が肘でつく。
「ちょっと!せっかくだから手伝ってもらいましょうよ」
小さく耳打ちする。
その目はらんらんと輝き、“こんな機会二度とない!”と訴える。
「えぇと。お、お願いしてもいいでしょうか」
もちろん、という返事の直後に、きゃ~、という黄色い悲鳴が響いた。