さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
にこやかな笑みは、普段と一寸たがうことはない。
あざを見られてから、不用意にレイラを抱き寄せることはなくなったが、
反対に、あざけったり嫌な顔を見せることもなかった。
「レイラ」
ふんわりと舞い降りるように呼ばれる名前も、
ソリャンの口から出るだけで、しとやかな本物の女性のものに聞こえる。
だが、この日ソリャンが続いて口にした言葉は、
レイラの身を気遣うものではなかった。
「君の赤い髪は母譲りだと、前に教えてくれたね」
はい、と返事をしてレイラは首を傾げる。
「君の母というのは、一体誰だい?」
「え?」
「ジマールの妻、レイラの母親の髪は金髪だ。赤くはない」
レイラは心臓を素手で握られたように、押しつぶされそうな気がした。