さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
濃紺の空に焦がれるがごとく、巨大な火柱が立ち上る。
黒煙が次々と名乗りを上げると、墨を流したように天を染め上げ、
きらびやかに瞬く星たちをぬるりと覆い隠した。
闇の中、真昼の明るさで燃えるその屋敷は、
遠くからでも簡単に見通せる。
チッと舌打ちをして、ユーリは馬の腹を蹴った。
三十人程の兵が一糸乱れず、同様に速度を上げてユーリの周りを取り囲む。
「ユーリ様。もしやあれは」
一人の兵が、ユーリに並走して声を上げる。
「間違いない。ジマールの屋敷だ」
先に偵察に出した兵が、家のものに金を掴んで聞き出した話では、
正体不明の親子が、厳重にとらわれているらしいとのことだった。
馬の扱いに秀でる必要はないと思っていたが、
今は、サジほどの速度で馬を走らせることのできない自分がうらめしい。
・・頼む。無事でいてくれよ。