さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
普段なら見張りがいるであろう塀の内側に、兵士の姿はない。
消火にかりだされているか、混乱の中、主を見捨てて逃げたか。
・・どうやら火元は、ジマールが住む建物とは別のようだな。
正面にあるもっとも豪奢な建物は、煙の被害を受けているだけで炎は見えない。
その黒煙をたどった先にあるのは、敷地の隅にある石造りの建物だ。
「まさか!」
ユーリは、そこが何であるかを認識して思わず駆け出した。
平屋の石造りの堅牢な建物。
極端に窓が少ない。
“正体不明の親子”がとらわれているのは、屋敷の奥にある灰色の石造りの牢だと聞いている。
後ろから供をしていた兵とはぐれたことにも気づかず、
ユーリは一目散にその建物を目指した。
息切れがして、立ち止まる。
手近にあった小さな木の幹に片手をつき、荒い呼吸を繰り返すと、
突然、背後に人の気配を感じた。