さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
国境は船で越えるほうがはるかに楽だ。
途中まではレガ国民の漁師として、その後はリア国民の商人として。
漁民のものと思われる船に乗り込んだのは、カマラを入れて20人ほどだ。
兵士と一緒にユーリの説明を聞きながらも、
俯いたカマラの心はここにはなかった。
ユーリたちには秘密にしてあること。
それは、幼い頃に見た、奇妙な父の姿。
国王直属の兵士のみが着用するという、太陽の模様が入った服。
それを着たユーリたちを見たとたん、塞がれていたカマラの記憶の扉が開かれた。
小さな赤ん坊を抱いた父。
おぼろげなその光景は、夢か現実か区別がつかぬほどの遠い記憶だ。
父が着る緋色の衣にある模様と同じものが、レイラの足にあると知っても、
幼い自分にとっては大して意味のあることでもなく、
すぐに別の記憶に埋もれてしまった。