さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~

澄み渡った広い空の画用紙に、白い雲が複雑な形で陰影をつける。

さまざまな想像を掻き立てる、一枚の絵画のようだ。


その雲の一部に父の顔を重ね合わせて微笑んだ直後、

レイラは耳にした言葉を理解できず、きき返した。


「あの。ソリャン様、今、なんて?」


少し疲れた表情を見せるソリャンは、だがいつもどおりの時刻にレイラの部屋を訪れ、

窓際に腰掛ける彼女の隣に腰をおろす。


「落ち着いて聞いて。

ジマールの屋敷が火事で消失したそうだ。レイラの家族も、行方不明だ。

おそらくは・・・」


そこで言葉を切り、ソリャンは眉間に皺を寄せた。


上空の風は強く吹いているのだろう。

レイラが見ていた雲は、あっという間に南へと流れていく。


“行方不明”


何度もその言葉の意味を噛みくだく。

だが、思考が停止してうまくのみこむことができない。




< 162 / 366 >

この作品をシェア

pagetop