さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
澄み渡った広い空の画用紙に、白い雲が複雑な形で陰影をつける。
さまざまな想像を掻き立てる、一枚の絵画のようだ。
その雲の一部に父の顔を重ね合わせて微笑んだ直後、
レイラは耳にした言葉を理解できず、きき返した。
「あの。ソリャン様、今、なんて?」
少し疲れた表情を見せるソリャンは、だがいつもどおりの時刻にレイラの部屋を訪れ、
窓際に腰掛ける彼女の隣に腰をおろす。
「落ち着いて聞いて。
ジマールの屋敷が火事で消失したそうだ。レイラの家族も、行方不明だ。
おそらくは・・・」
そこで言葉を切り、ソリャンは眉間に皺を寄せた。
上空の風は強く吹いているのだろう。
レイラが見ていた雲は、あっという間に南へと流れていく。
“行方不明”
何度もその言葉の意味を噛みくだく。
だが、思考が停止してうまくのみこむことができない。