さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
赤い月が、藍色の水面に揺れ動く。
その中を、明かりもつけずに進む船が一艘(そう)。
ときおり船をこぐ、キィキィという音がする以外、
何も聞こえてこない。
「どうするつもりなの?」
夜目がきくとはいえ、不慣れな土地だ。
加えて指揮を取っているのが、剣もろくにふれぬ優男ときては、
男勝りのカマラであっても、不安が胸をつく。
岸の近くまで迫っていることはわかっていたが、
月明かりだけを頼りに接岸するには無理がある。
下手に船底をぶつけたりしたら、それこそ一大事だ。
「大丈夫だよ。魔法が使えるからね」
ユーリは片目を瞑って見せると、両手を複雑に組み合わせて唇に当てた。
ホォウ、ホォウ。
鳥の鳴き声そっくりの音。
どちらの方角へ進んでいるかもわからなかった暗い空間に、
突如、明かりが出現した。