さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
今夜はやけに月が赤いな。
サジは誰かの顔を思い出して眉をひそめた。
妖しく輝くその色は、瞼を閉じても直接瞳の裏に焼きつきそうだ。
サジは注意深く周囲をうかがうと、
部屋の隅の壁を押しやろうとして、ふと手を止めた。
・・なくなっているな。
隠し扉があるというのは、侍女から仕入れた話だ。
王族が寝ている最中に死ぬことが多いということを話題に出した時、
実は、と女は声を潜めた。
城の中には、いくつもの隠し扉や通路があり、
王族の部屋にもそれを使えば簡単に侵入できる。
本来は敵から身を守るためのものだが、
それを誰かが悪用しているのではないかと、
侍女たちの間で密かに交わされている話だという。