さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
もちろんただの侍女が、その通路について詳しく知っているわけもない。
ところが、それとは別の機会に、サジは奇妙な噂を耳にした。
城の中に、幽霊の出る場所があるのだという。
リア国を建国した祖先たちが、夜な夜な歩き回るというその場所は、
確かに普段人々が足を踏み入れそうもない、地下の一室にあった。
そこに入ると、生きた者は魂を喰われ、
二度とこちらに戻っては来れないのだという。
相当に古い伝説かと思えば、教えてくれた侍女は、
「ここ10年くらいの話だと思うけど」
と答えた。
サジはすぐさまその場所に足を踏み入れた。
隠したいものには、人が近寄りがたい細工をするのが普通だ。
埃まみれのその場所を一目見て、サジは目を細めた。
足元には新しい靴跡。
壁には、一箇所だけほこりを被らず、手垢がついている。