さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
雲が月を隠した刹那、影がすばやく身を翻す。
「待て!」
サジもまた、瞬時に反応すると、腰を落とし闇の中に手を伸ばした。
サジの剣が、グワンと音をたてて壁に突き刺さる。
剣と壁の隙間に喉元を挟まれ、動きが止まった。
壁を向いた相手の片方の手を、サジが後ろにひねりあげると、
「うっ!」
くぐもった声が漏れた。
「女か!」
予想していなかった体の細さと明らかに男ではない声に、
ほんの一瞬拘束していた力が緩む。
その隙を逃さず、女が肘でサジのみぞおちを突いた。
「ぐっ!」
今度はサジが声をあげる。
女はするりと身をかわすと出口に向かって一直線に走り去った。