さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
ちっ、と舌打ちしてサジは勢いよく部屋を飛び出そうとしたが、
戸口まで来て急に足を止め、後ろを振り返った。
月の光がほのかに差し込む部屋で、
声にならない声を上げ、寝台の上に縮こまった塊が見える。
いったんは戸口に向き直ったものの、サジは足先をレイラに向けた。
「おい、大丈夫か」
大丈夫と返事をしようとしたが、今になって恐怖が押し寄せ震えが止まらない。
レイラは自分の膝を抱えたまま頷いた。
上下の歯が、カチカチと不愉快な音をたてる。
「悪かった。怖い思いをさせた」
片方の手に剣を握ったまま、もう片方の腕でサジはレイラを抱きしめた。
・・サジ
レイラは心の中でサジの名前を呟いた。
冷たかった手足にぬくもりが戻ってくる。
「悪かった」
もう一度サジにあやまられ、レイラは首を精一杯左右に振った。
“そんなことはない”と言いたかったが、声にならなかった。
(つづく)