さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
「他人に聞かれたら困る話だから、部屋に行っただけのことだ。
そんな仲じゃない。利用価値は充分にあったが、恋人にはごめんだ。
噂話が服を着て歩いているような女は」
サジが怒ったようにぷいと顔を背けるのを見て、
レイラは思わず泣きそうになった。
・・なんだ、恋人じゃなかったんだ。
サジの台詞は、安堵とともに別の可能性にも光を当てる。
レイラはしばらくサジの立ち姿を眺めたが、やはり俯くしかなかった。
もう、床のどんな細かい傷や染みの位置までも記憶してしまっている。
その視界の中に、銀色の髪が入り込んで、レイラはたじろいだ。
「とにかく、もう少しの辛抱だから我慢しろ」
誰が見ているわけでもないのに、サジは跪いている。
レイラの頬に手を添えると、顎に伝った涙の一滴を指で救い、
子どもを諭すように、いいな?と念を押した。