さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
小さくて事情は良くわからなかったが、
今なら父の打ち明けた話が真実であると確信できる。
ミゲルは、城に仕える兵士だったのだ。
それも、王直属の。
父とともにこの都を去った日の事が、ついさっきのことのように思い起こされる。
何十年かに一度といわれるほど気温の冷え込んだ、雪の降る静かな夜だった。
「大丈夫かい?」
ユーリの声で、カマラは我に返った。
知らず、自分の体を抱きしめるように巻きつけた両腕をおろす。
大人だと思っていはいても、父に頼っていたのだと思い知らされた。
「大丈夫よ。それより、城にはどうやって入るの?」
目の端に溜まった涙をそっと拭う。
ぼんやりしているように思えて、何気に鋭いユーリのことだ。
きっと気づかれただろうと思ったが、それ以上何も言われなかった。
ユーリは静かにカマラから視線をずらすと、巨大な城を見上げる。
「それが困ってるんだよね」
いたずらがばれた子ども以上に真剣味に欠けた声に、カマラは
「へっ!?」
素っ頓狂な声を上げてしまった。