さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
・・ただ者じゃないわ。
こんなに近くに来るまで、人の気配を察知できないなんて、父以外になかったことだ。
「カマラ。君は行け。なるべく音をたてずに、でも全力で走って」
「嫌よ。私は他人に指図されるのは大嫌いなの」
べっとりとかいた汗で額に張り付いた前髪を払うこともできず、
カマラは大きく息を吸うと、手燭を床に置き両手で剣を構えた。
「ここで全員つかまるより、一人でも逃げ延びた方が助かる確率が上がる。
この狭さじゃ、人数は有利にはならない。行け!!」
手首をつかまれ、有無を言わせず体を引きづられる。
「行け!」
背中をどんと押され、カマラはよろめいた。
自分より弱いと高をくくっていた男の思わぬ威力に、目を見張る。
カマラは歯噛みした。
「死んだら許さないから!」