さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
二人の間にある空気の壁を打ち破るように、ソリャンの手が、レイラの頭に伸びた。
レイラは体を固くしたが、構わずソリャンは赤い髪に指を差し入れて梳き始めた。
「その通りだよ、レイラ。
でもね、大人と知恵比べしなくては生き延びることを許されない子どもだって、
この世には存在するんだよ。
この僕のようにね」
ソリャンの視線は、空を彷徨う。
時折見つめられても、それは形だけで、
そのうつろな瞳は、自分をうつしていないのだ、とレイラは思った。
「何人もの異母兄弟がいるなかで、僕はたんなる一男子ですらなかったんだ。
長男でも末っ子でもなく、特にすぐれた特技も持たず。
病弱な僕は、母からも疎まれた存在だった」
レイラには、ソリャンの話は半分も理解できないものだった。
息を吸って、吐き出す。
自分自身にそのことを命じていないと、息をする事を忘れそうだ。
炎に熱せられた蝋が、蝋燭の芯からとろりと伝い落ちた。