さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
レイラの乗った馬車に並走する若い兵士は、美しい青一色に塗られた空を眺め、周囲にわからぬようにため息をこぼした。
全く嫌な役目をおおせつかったものだと、ふくれっ面をしたまま馬を進ませる。
彼はレイラの護衛をおおせつかった者の中では、頭が良く、
小柄ながら剣の腕にもそれなりに自信があった。
その隣を歩く兵士が、小柄な兵士に小さく声をかける。
こちらは、横幅だけは人並み以上だが
なぜ護衛に選ばれたかわからぬくらい、どんくさい男だ。
「なぁ、レイラ様はソリャン王子に気に入られるかな」
鼻にかかる太った男の声は、間延びしていて、真剣な内容を語るときにも、たいていの者の癇に障る。
果たして尋ねられた小柄な男は、眉間に皺を寄せた。
「そんなわけないだろ。
結婚などと言いながら、本当は人質として城へあがるんだ。
ソリャン王子には、すでに7人もの妃、つまり人質がいる。
みな、すばらしい美人らしいが、ソリャン王子は誰を寵愛するでもなく、それぞれ幽閉状態だと聞いている。
その人質が一人増えたところで、王子が関心を示すわけがないさ」
質問をした自分の倍近い腹回りの兵士をじろりとにらみつけると、小柄な兵士はすぐに視線をはずした。
馬鹿な質問をしてくるものだ。妃というのが名ばかりなことは、そのへんの農夫だって知っていることだ。
「だよなぁ。
ジマール様は、レイラ様のことを目に入れても痛くないほどにかわいがっておられたのに、
よく手放す気になられたな」