さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
『レイラ。お前は優しい子だ。
いいか?どんな時でも、その優しさを忘れないでいるんだ。
そうすればきっと幸せになれる』
『お父さんみたいに?』
『・・・父さんは、弱い人間だったからな。お前には父さんのようになって欲しくない』
『弱いって、お父さんが?』
『父さんは、優しさを忘れていたんだ。それを思い出させてくれたのはお前だ。
優しくあるためには強くなくてはだめだ。
お前には--、お前とカマラには、いつでも強くあって欲しい。約束してくれるか?』
『うん。約束ね!』
不意に、幼い頃のミゲルとの思い出が、レイラの頭の中を駆け巡った。
あれは、いつのことだったのか。父の膝に抱かれ、父のぬくもりを肌で感じていた頃。
何気ない会話の一つ一つに、もしかしたら現状を回避できる答えが隠されていたのかもしれない。
だが、もはや手遅れだ。
「ご無礼いたします」
冷静ではりのあるハスナの声が向けられる。
それをどこか他人事のように感じながら、レイラは目を閉じた。