さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
体中の毛が総立ちになるほどの、ひんやりとした感触がうなじに当てられる。
「もう一度だけ言うよ?
僕の妻として、このまま幸せに暮らす気はないかい?」
「そんな暮らしを、幸せとは呼びません」
レイラは歯を食いしばって恐怖と戦い、
ソリャンの提案をきっぱりと跳ね除けた。
「・・・やれ」
・・お父さん、私、間違ってないよね?
ソリャンの言葉に、いったん首筋につけられていた冷気が遠ざかる。
続いて、ビュンという空気を切り裂く音が鳴り響いた。
自分の命のともし火が消えようとする瞬間を、
レイラが耳でとらえようとした刹那。
「そこまでにしてもらおうか」
部屋全体をうち振るわせるほどの声が、矢よりも鋭く飛んできて邪気を払った。