さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~

それは確かに、太っちょの兵士が言う通りだった。

地方貴族であるジマールに従う兵士の間では、もしやジマールがリア国王の要請、

--一人娘であるレイラをソリャン王子の妃として差し出すようにという、事実上の命令--

を断るのではないかと噂がたつほど、ジマールは一人娘を溺愛していたからだ。


小柄な兵士は、眉間にしわを寄せて吐き出すように口にした。


「結局は、力に屈したってことだろう。

忠誠心を示すためにと、地方を治めている貴族からは身内を王族に差し出させるんだ。

ここ10年の間に急にそんな風潮になってきたが、断れば戦になる。

大人と子どものな」


大人がリア国を治める王のことで、

子どもが自分たちの仕える地方貴族ジマールの比喩なのだと、

すぐにはわからなかったのろまな兵士は、長い間黙った後、腹の脂肪を揺らしてなるほどと頷いた。


「それにしても、隊長はともかく俺たちなどレイラ様の顔も知らないのに、

こんなお役目を授かるなんて、すごい出世だよなぁ」


単純に喜ぶ男のたるんだ肉体は、平素からの訓練の怠け具合を示しているようだ。


・・出世ねぇ。



小柄な兵士は複雑な顔をして、自分の隣で嬉々としている兵士を眺める。

どうやら、外見と同じように脳味噌もたるんだ脂肪が詰まっているのだろう。



『俺たちなどレイラ様の顔も知らないのに、こんなお役目を授かるなんて』


小柄な男は、太った兵士の言葉を心の中で反芻した。

つまりは、顔も知らないような下っ端の兵士たちに護衛をさせるほど、

すでに馬車の中身は重要ではないということではないか。

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