さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
張り上げてもいない声なのに、それは腹の奥底にずんと響く。
レイラははっとしてサジの背中を見つめた。
顔は見えない。怒声でもない。
それでも、今までに見たことがないほど、強烈なサジの怒りを感じる気がした。
それが自分に向けられたものでないとわかっていても、思わず身震いするほどの--。
「レイラの兄だと思い、命は助けてやるつもりだったが・・・」
足音も気配さえ感じず、サジの足が舞うように動き、ソリャンとの距離を詰める。
「そんな気が失せた」
ソリャンは気圧されて、思わず身じろいだ。
正面から殺意を向けられるのは初めてではないはずだった。
幼いころから命を狙われることは多かったし、
自分が陥れてきた人間からの憎しみを受けることにも慣れていた。
だが、今自分を見下ろしている女のような容貌をしたサジに、
ソリャンは、恐怖した。
そのことを悟り、苛立ちを覚える。
・・くそっ!兵たちは何をしている!この私が呼んだらさっさと来るべきだろう!