さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
「ハスナ、こいつを殺せ!
お前にはそれしか能がないんだ!」
ソリャンの命令に、ハスナははじかれたように瞳を開いた。
その両眼が濃い暗闇に染まった瞬間、ハスナは背中を押されたように低い姿勢から飛び出した。
同時に、サジも床を蹴って飛び出した。
「なっ!?」
あっさりとハスナの剣をはじき、サジはそのまま後ろにいるソリャンに斬りかかる。
自分の手になじんだ剣が宙を舞うのを信じられない思いで見つめながら、
ハスナは本能的に悟った。
・・間に合わない!
渾身の力を振り絞り、反転して素手のままソリャンとサジの間に身を押しいれた。
・・ソリャン様。
ソ、リャン・・・。
深い森に抱かれたような、美しい緑の瞳が見えた。
自分の仕えた残忍で美しい主。
驚いたような、おびえたような目で、
しかし、怒りの色はなかった。
心なしかさびしそうに見えた。
・・気がした--。