さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
ソリャンは顔を上げ、壁に仕掛けられていた発火装置を見た。
もしもの時のために、通路一体に油が通る道を作ってあった。
油が染み出すたびに、赤い炎が、正確に流れに沿って走っていく。
その太陽のように光り輝く赤は、誰かの髪をほうふつとさせた。
自分と違い、祝福を受けて産まれてきた妹。
命からがら逃げのびて、どこかでのたれ死ぬか、
小さくなって暮らしていると思ったのに、
会ってみたら、卑屈さもない素直な娘だった。
必死で城にしがみついて生きてきた自分が、馬鹿みたいに思えるほどに。
・・ずるいだろう。それじゃあ。
ソリャンは壁にもたれ座り込むと、女の亡骸を膝に抱えた。
不思議と苦しみはなかった。
ソリャンはもう一度腕に力を込めて、女をぎゅっと抱きしめた。
母の、笑った顔が見えたような気がした--。
(つづく)