さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
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東の空が明けに染まる頃。
田舎町には似つかわしくない馬のひづめの音が、
さらに町のはずれにある一軒の家を目指し集団で澄んだ大気を振動させる。
すでにずいぶん前から、家族の帰宅を察し、燃え立つような赤い髪をした少女が、扉口で暗闇に向かい目を凝らしていた。
それは、数ヶ月に一度の恒例行事だ。
14を迎えたばかりの少女は、どんなに駄々をこねても、この集団についていく事を許されない。
家で留守番の役目を言い渡されるたび、唇を尖らせて文句を言うのが常だった。
そして、夕方から出かける彼らを見送ると、窓際に座ったまま、眠りを拒否して星を眺める。
家族が無事に帰ってくることを祈りながら。
今日もいつもの様に、地響きにも似た振動を足の裏で捕らえ、
少女は転がるように外へ飛び出した。
そのまま、町の方角を見つめる。