さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
両側を高い木々が囲む狭い道はくねくねと曲がり、見通しが悪い。
馬車が速度を落とすのに合わせ、兵士たちも速度をおとした。
「俺たちの役目は、レイラ様を無事にリア国の城まで送り届けることだ。
余計なことは考えるな」
自分自身に言い聞かせるように、小柄な兵士は毅然と前方を見据えた。
「あぁ、そうだな」と太った兵士は返事をした。
かわいそうにな、と小柄な兵士は同情を含んだまなざしを馬車に向けた。
その中にいるはずのジマールの娘「レイラ」に。
小柄な兵士がほんのわずか、馬車に気を取られた瞬間、隣に並んでいた太った兵士がうっ、と呻いた。
「なんだ、どうした!」
俊敏な兵士は、不測の事態に備えて振り向きざま、剣を抜いた。
しかし、彼が状況を把握する前に、後頭部に鈍い痛みがはしり、目の前が真っ暗になった。
つかわれなかった剣が、地面にかすかな音を立てて転がった。