さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
陽が昇り始めたのだろう。景色が徐々にはっきりと陰影を描きだす。
「今日、出立するのよね」
「あぁ、もう間もなくだ」
「あの。今まで本当にいろいろと有難う」
「私は私の仕事をしただけだ。気にする必要はない」
サジの仕事がレガ国とリア国の政事に関することだというのは、
説明を受けて知っていた。
彼の言葉通り、彼は彼の仕事をしただけで、特別自分のために何かをしたわけではない。
助けてくれたのは、彼女が王女であり、
扱いやすい女が王位を継げば、レガ国にとって有益だと踏んだからだろう。
それでも。
「ありがとう。無事に、着きますように」
サジは手綱を握ったまま、答えなかった。
レイラがサジを見つめると、蒼い瞳がまっすぐに自分を見つめ返す。
二人の存在が空気に溶けてしまったかと思うほど、静かな時間が流れた。
やわらかな風が、レイラの髪を梳いて去っていく。
何度目かの風の挨拶に押されるように、サジが口を開いた。
「では、そろそろ行く」
簡潔な別れのあいさつを残し、サジが背を向ける。
「あ・・・」
・・行ってしまう。