さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
「い、痛・・・くない?」
しこたま打ちつけたはずの鼻は、痛むどころかかすかな匂いを覚える。
たくましい腕には、間違いなく覚えがあって。
前にも嗅いだ事のある、男の人の香りに、
レイラは、半信半疑でそっと顔を上げた。
青銀色の双眸が、自分をとらえている。
なんてきれいなんだろう、と息をのみ、
次いで状況を理解してもう一度息をのんだ。
窓からずり落ちた自分の体が、すっぽりとサジの体に埋まっている。
膝に抱えられ、胸に顔をうずめるその様は、
まるで恋人が男に甘える仕草のようだ。
レイラは全身から冷汗がこぼれ、同時に、沸騰した湯のように頭が熱くなった。
両手で顔を隠すと、消えそうな声でごめんなさいとつぶやく。
「まったく本当に、ドジな娘だな。
いくら平屋の離宮だからといって、顔から地面に落ちれば怪我をするだろう。
王になったら、一日一回のドジは少し減らすように努力しろ」