さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~

レイラを解放すると、突然サジはひざまずき、レイラの左手をとった。

その小さな甲に、壊れ物を扱うようにそっと唇を落とす。


「レイラ。君を愛している。


私の妻になってほしい。

国のためではなく、私自身のために」


サジにとって今や高価な宝石よりも価値のある大きな瞳が、驚いたように見開かれた。


不意に、冷たい滴が数滴、サジの手をぬらした。

それは空ではなく、レイラの目じりからこぼれおちたものだった。


「やはり、私ではだめか?」


「ううん!そうじゃなくて。信じ、られない」


すっと音もなく立ちあがったサジに、今度は見下ろされる形になる。


レイラは真剣なサジの瞳に縛られたように、目を離すことができないでいた。

間近で見たサジの瞳は、ヴィシューの湖面のように美しく自分を惹きつける。


ヴィサージェというサジの本当の名が、ヴィシューの湖にあやかったものであるという話も素直にうなずける。

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