さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
漆黒の闇に、一つの影。
その黒いかたまりは暗闇の中とは思えないほど俊敏な動きで、
常人ならたどり着くことさえ難しいその部屋へ、やすやすと降り立った。
夜目の聞く男にとって、熟知している秘密の抜け道を通り、王女の寝室に入りこむなど造作もないことだ。
男は様子を窺いながら、慎重に窓際へと身を寄せた。
寒いと思ったら、雪が降り始めている。
侍女も見張りも、食事に盛った薬がよく効いて眠っているのだろう。
不気味なくらい静まり返っている。
何の障害もなく、男は王女の寝台に、足音も立てず忍び寄った。
「あ~」
小さな体から発せられた音に、自分の行為を咎められた気がして、
一瞬動きが止まる。
自分は、やはり間違ったことをしているのかもしれない。
それでも。