さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
男は腕を伸ばし、王女の体を腕に抱いた。
柔らかく温かな体からは、間違いなく鼓動を刻む音がしている。
「悪いな。お前に罪はないが、恨むなら、非道な親を恨めよ」
なぜ王が数ある王子ではなく、たった一人産まれた王女を跡継ぎに据えたのか。
男には思い当たる節があったが、今となってはそれを確かめるすべもなかった。
・・秘密の通路は、隠しておいた方がいいな。
露見すれば、この通路を通って、自分たちに確実な追手がかかるだろう。
・・いや、それはないか。
一瞬、男はすぐに捕らえられることを想像したが、即座にそれを否定した。
男は、王が通常の追手しか差し向けることができないと踏んでいたし、
それは真実でもあった。
秘密の抜け道を表ざたにすれば、王自身の身が危うくなる。
いざという時に城外へと抜けるために造られたそれは、
王の命綱でもあるのだ。