さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~

男は、すやすやと眠る赤子を手早く布でくるむと、

窺うように辺りを見渡して、すばやく窓から綱をおろした。

窓際に足跡を残し、いかにもそこから逃げたように細工をする。


王は真実を見抜くだろうが、それはたいして問題ではない。

忽然と姿を消したことにするよりは、この方が、少しは時間稼ぎになるだろう。

正攻法しか使えない王が、賊を捕らえるためと城門を閉ざしたところで、

自分たちはすでに城を出た後なのだ。


男はもう一度部屋の中をぐるりと見渡し、秘密の抜け道に体を押し込んだ。


街へと続く地下通路の入り口では、一人の若い男が小さな少女を背負っていた。

金の髪をしたその少女は、安らかな寝息を立てている。



・・カマラ。すまない。



男は小さな子供の頭を一撫ですると、腕の中にいる赤子を抱きなおした。


「準備はできているな?」


「はい。ホックが街の外で馬を連れて待機しています」


「よし。行くぞ」

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