さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
「お姉ちゃん?
逃げるってどういうこと? お父さんは? みんなはどうしたの?」
レイラは、姉の後方に視線をずらした。
白髪の目立ち始めた父ミゲル、真面目で優しいリュート、酒好きで陽気なホック・・・。
いつもならそこにあるはずの人影が、一つも見当たらない。
「父様は捕まったわ!
ここも危ない。早く私の後ろに乗って!」
事態を飲み込む前に、馬上から姉の手が伸びる。
レイラは反射的に差し出された手にしがみついた。
姉の馬は止まっているのに、足の裏に感じる振動はそのままだ。
もしや、父たちではないかと、レイラは馬にまたがりながら町の方角を振り返った。
「お姉ちゃん、あれ見て」
ものすごい土煙が、猛然と迫ってくる。
父だろうか、と考えて、レイラは姉の顔を見た。
しかし、姉の眉間には、深いしわが刻まれる。
チッと舌打ちをして、レイラの姉--カマラは鐙を蹴った。
「きゃあ!」
突然走り出したせいで、レイラはカマラの背中に、しこたまおでこを打ちつけた。