さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
落ち着いて、というサジの声が息と共に首筋に運ばれ、
そわそわとしていたレイラは、はっと、自分の立場を思い出す。
ごくりとつばを飲み込む音が、耳に響く。
と、周囲の兵士たちが一斉にかかとを鳴らし、背筋を伸ばした。
そのぴりりとした空気が、いやおうなく高貴な人間が近づいている事を示す。
「王だ。頭を下げて」
囁くようなわずかな音に反応して、レイラは慌ててお辞儀をした。
カツン。
カツン。
ゆっくりとした王の足取り。
レイラの体中からじん割と汗が染み出す。
やがて、ドスンという音と同時に、重厚な声がした。
「お前がジマールの娘、レイラか」