さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~

拒否を許さない、その瞳には見覚えがある。

“仕事”をしてる時の目だ。


カマラは唇を噛み締めた。


「はい」


弱弱しい声と共に、一粒の雫がカマラの頬を伝う。


ミゲルはそれを指の腹でぐいと拭い、

もう一度娘の体をきつく抱きしめた。


「すまない、カマラ。私を許してくれ」


「父さ、ん」


自分ひとりが逃げ出せば、後に残ったミゲルがどんな目に合うか。

カマラはその想像を頭から追いやった。

そうしなければ、とても立っていられなかった。


飯だぞ、と言って食事を運んできた兵士は、

声も上げず涙にむせながら抱き合う親子の姿に、

とうとう頭がいかれたのかな、と思った--。




< 96 / 366 >

この作品をシェア

pagetop