さらわれ花嫁~愛と恋と陰謀に巻き込まれました~
拒否を許さない、その瞳には見覚えがある。
“仕事”をしてる時の目だ。
カマラは唇を噛み締めた。
「はい」
弱弱しい声と共に、一粒の雫がカマラの頬を伝う。
ミゲルはそれを指の腹でぐいと拭い、
もう一度娘の体をきつく抱きしめた。
「すまない、カマラ。私を許してくれ」
「父さ、ん」
自分ひとりが逃げ出せば、後に残ったミゲルがどんな目に合うか。
カマラはその想像を頭から追いやった。
そうしなければ、とても立っていられなかった。
飯だぞ、と言って食事を運んできた兵士は、
声も上げず涙にむせながら抱き合う親子の姿に、
とうとう頭がいかれたのかな、と思った--。