特攻のソナタ
もう、半世紀以上も昔のこと。昭和二十年のある夏の日。あの日も今日のようなセミがこだまする暑い日だった。戦局がいっそうの厳しさを増す中、私たち女学生も学徒勤労動員と称して軍需工場へ駆り出されていた。そしてその日、みんなが工場へと働きに出、私一人学校の留守を預かっていた。

「誰かおられませんか-。すいませ-ん。」
予期せぬ訪問者だった。職務室の窓から顔を出すと、そこには軍服を着た若者が立っていた。
「あの。何か?」
「自分は、鹿児島海軍航空隊の吉村といいますが、折り入ってお願いがあるのですが。」

カーキ色のズボンに白いワイシャツ姿のその若者は、背筋をぴんと伸ばし、響くような声でそう言った。凛とした顔立ちには、どこかしら十代のあどけなさも見て取れた。
「・・・」
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