【短】偽りのチョコ
勇汰が車から降りて、二十分過ぎたところで、黒のロングコートを着た長身の男が、勇汰に近づいて行った

「あ…社長だ」

スーツの男がほっと息を吐いているがわかった

勇汰と同じように黒縁の眼鏡をかけて、漆黒の瞳で、仁王立ちしている男性は、一言二言、勇汰と会話すると、『続けろ』と口が動くのが見えた

は? 続けろって言った?

勇汰はニヤリと嬉しそうな顔をすると、長い足を振りあげて、車を思い切り蹴りを入れる

「しゃ…社長?」

スーツの男がびっくりしたような声をあげてると、ロングコートの男がこっちに近づいてきた

後部座席のドアを開けると、あたしの顔を見て少し驚いた顔をする

が、すぐににっこりと笑って乗り込んできた

「社長、勇汰様を止めなくてよろしいのですか?」

「ああ、構わない。暴れさせておけ」

え? 何てことを言うの?

「餓鬼かと思ってたが、だんだん行動がイッチョ前になってきたな」

「は?」

あたしは思わず声が漏れてしまった

慌てて口を抑えていると、隣に座っている40代後半の男がくすっと笑った

「暴れるのに、きちんとした理由があった」

「理由があれば…人の車を廃車寸前にしていいんですか?」

「代わりの車を用意してやればいいだろ。そうだな…軽自動車でもプレゼントしてやる」

「はあ…」

軽自動車って…何で?

「あ、自転車で十分だな」

「へ?」

隣にいる男も、勇汰と同じように楽しそうに微笑んでいた

この父で、この子あり…みたいな感じ?

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