【短編】あれもこれも
「証拠?」
「そう。キス止まりで……それ以上してこなくて。おまけに何考えてるか分かんなくて」
無愛想でホント何考えてるのか分かんない。
だから喧嘩もしちゃった。
それに……。
「あたしは初めてだけど、吉馬は違うかもしれない。だから……ヘタで愛想つかれたらどうしようって……」
すると夕くんはあたしの顔をまた覗き込んできた。
「だったらさ。おれと……してみる?」
「は?」
また何を言い出すんだ。
「のんちゃんは初めて。もし吉馬がそうじゃなかったら。気持ちよくさせてあげたいよね?練習って意味でさ。おれとしてみる?」
そう言って夕くんはあたしの頬に手を添えてくる。
「おれ慣れてるし……優しくするからさ?」
「ちょ……」
「前も言ったけどさ。おれはのんちゃん魅力ないなんて思ってないし」
耳元で囁いてあたしに近づいてくる。
「する?」
甘い声であたしに囁く。
唇同士が触れそうな時、あたしはバッと夕くんの両頬に手を添えてそれを阻止した。
そして無表情で言う。
「あたしは夕くんとしたいんじゃないの。吉馬としたいの!」
「……」
睨みながらそう言うと、夕くんは口を尖らせてあたしから離れた。
そしてソファに胡坐をかいた。