【短編】あれもこれも


それから1ヶ月。


「えぇー?もうバイバイすんの?」


「うん。俺これからバイトだし」


はぁ!?バイト?
バイトとあたし。どっちが大切なのよ。


「だってまだ7時だよ?」


そう言って吉馬を睨むと、吉馬は頭を掻きながら目を閉じた。


「飯も食ったし。観たかった映画も観たじゃん」


た、確かにそうだけどさぁ。


すると吉馬は目を細めてあたしを見下ろした。


「それとも。まだどっか行きたいとこあんの?」


「ない、けど……」


ないけどさ。
でも……。
もっと一緒にいたいとか、吉馬は思わないのかな。


すると吉馬はあたしの頭をポンポンと叩いてニッと笑った。
そして横でひとつ縛りしているあたしの髪を指に絡めた。


もぉ……絡まるよ。


あたしは頬を膨らませながら目を伏せた。
しばらく髪をいじっていると、吉馬はあたしの両頬に手を添えてあたしを見上げさせた。
そしてフッと笑うと、あたしの唇をそっと塞ぐ。


キスは好き。
吉馬のキスは好き。
少しカサカサしてて、薄い唇で。
その唇が重なってくるのが好きだ。


「んじゃ。また明日な」


唇を離すと頭をポンポン叩いてニッと笑って吉馬は去って行った。


吉馬は好きだよ?
家に帰る時間いつも早いし。
たまにバイトに妬いたりするけど。
ちゃんと好き。


でもさ……?


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