ハニードハニー
「……HINA」

「え――?」


 彼女が口を開いた。

 ドキッとしたが、ニュアンスからして私の名前ではなく“歌手”としての私の名前。

 彼女の視線がどこにあるのか分からないが、その声だけは私に投げかけたのだと分かった。


「あ、そうだ。これから仕事だったら一緒に行こうよ。神谷さんとたくさん話をしたいし……ってちょっと!」


 私が言い終わる前に彼女は歩き始めてしまった。


「待って神谷さん!」


 やっぱり彼女は歩くのが早いのだろう。

 すでに遠くまで行ってしまっている。

 私の呼びかけに一瞬だけ止まったがすぐに歩き出してしまった。

 そこで私は気付いた。

 さっきも話している時に一度も視線を合わせてはくれなかった。

 そして一瞬だけ止まった彼女の後ろから感じた。

 あれは私に対しての――拒絶。

 1日の終わりを知らせる鐘だけが虚しく鳴り響いた。
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