ハニードハニー
「大丈夫なんですか?」

「大丈夫だよ。雛から外されるとかはないから。ただの連絡ミスだし」


 減給とは言われたけどね、と付け足すマネージャー。

 我らが社長の言うことは絶対だ。

 規則を守らないとか呼び出しに行かないなんてクビを示している。

 それがスタッフだろうがタレントだろうが誰であろうと、この事務所に入ったら同じこと。


「それならいいですけど。私、柏木さんじゃないと嫌ですからね」

「……嬉しいこと言ってくれるね」


 そっと合った視線に私は目をつぶった。

 すると柏木さんはいつも優しく頭を撫でてくれる。

 この行為が酷く心地よい。

 兄さんもよく頭を撫でてくるけど、柏木さんの安定感には勝てない。


「それじゃあそろそろレコーディングに戻ろうか」

「……一気に現実に引き戻しましたね」

「これも俺の仕事だからね」


 最後に髪をすくように手を離された。

 しぶしぶ休憩室から出る。

 レコーディングが嫌な訳ではない、ただ、今日は違ったのだ。
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