ハニードハニー
「柏木さん」

「ん? どうしたの」


 柏木さんの声は私が寝ることを遮らないような声だった。


「今日スタジオに来てたんです」

「……ああ、YUURIか」

「その、彼女も仕事だったんですか?」

「隣のスタジオで主演ドラマの撮影があったみたいだよ」


 帰国早々主演ドラマか。

 やっぱり今日仕事あったんだ。

 学校で一緒に仕事に行こうと誘ったのに断られた。

 直接、口で言われた訳ではないけど、あの時の後ろ姿から感じた確かな拒絶。


「私、彼女に嫌われてるみたいなんです」

「どうして? まだ会ったばかりなのに」

「分からないです。ただなんとなく……」


 信号が赤になり車が静かに止まる。


「雛の思い過ごしじゃない?」

「だといいんですけど……」

「まだこれからでしょ。笑顔でたくさん話しかければ大丈夫」


 満面の笑顔を私に向けてくる。


「柏木さんみたいに出来ればいいんですけどね」

「大丈夫だよ。雛ならできるから」

「……はい、がんばります」

「寝ていいよ。家に着いたら起こすから」

「……はい。ありがとうございます……」


 私は目を閉じた。

 明日、学校できちんと話せるだろうか。

 車が発進した振動と共に私は眠りについた。
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