ハニードハニー
 この目の前にいる美しい女性はなんと言っただろう。



「事務所というのは? 私ただの高校生なんですけど……」

「あなたの事、スカウトしてるの。歌手として」



 歌手……?



 歌手ってテレビに出たり歌を出したりしないといけないじゃん。

 そんな自分から人前に出ることなんて……考えられない。


 私は首を横に振った。


 しかし彼女は私を説得しようとした。



「ねぇお願い? 優しくするから」



 優しくって何をするつもりなのっ!



 かれこれ30分近くは説得されていただろうか。

 道行く人が不審な目で行き交うのが堪らなく恥ずかしかった。



「……分かりました。少しだけ考える時間を下さい」



 今となってもどうしてそんなことを言ったのか。

 口が勝手に動いたとしか言いようがない。
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