ハニードハニー
 彼女は黙って聞いていた。


「それともうひとつ。私のレコーディング中にスタジオに来てたことがあったよね。あの時感じた視線が忘れられないの。いつもの神谷さんとは違う熱い視線、あの視線は私に向けてたの……?」


 膝の上に置いていた手が少しだけ震えた。

 ここの空気がひんやりとしているように感じた。

 沈黙が続いた。

 私はそれ以上言葉を発することができなくなっていて、彼女からの答えを待つばかり。

 だが彼女はいつ口を開くのか、そのような素振りも見せずコーヒーを飲み進めた。

 砂糖もミルクもいれず、ブラックで飲んでいる。

 苦くないのだろうか。


「あの視線はあなたじゃなくてHINAに向けてたのよ」

「――え?」

 彼女のカップが空になった頃、彼女はそう言った。
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