ハニードハニー
 体が震えた。

 それは緊張からではなくて、きっとこれから立つステージのドキドキが抑えられなかったんだと思う。

 そろそろ時間だ……。

 今日2回目のステージに向けて楽屋を出る。

 足取りは軽いほうだと思う。

 深呼吸して歌のイメージを固める。

 会場内に私の歌をいっぱい響かせて盛り上げよう。

 舞台袖に立つとそこは関係者達がせわしなく動き回っている。

 メイクを軽く直してもらい、マイクを持ち準備は完了。

 今の私は完璧に『HINA』である。


「雛ちゃん探したよ、間に合ってよかった」


 凛とした声だが、耳に聞きなれたここで聞くはずのない声が聞こえた。

 柔らかく酷く安心する声、私の、大好きな、声。

 その声の持ち主に振り返る。


「平野さん?」


 どうして平野さんがここに?

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