ハニードハニー
「雛ちゃんの歌好きだよ。俺だけじゃない、このイベントに来ている人達みんながそう思ってるよ。きっとみんなが雛ちゃんのことを待ってる。俺も観客席から応援してるよ」


 顔を上げると平野さんがまっすぐ私を見てくれていて心臓が跳ねる。

 だめなのだ。

 彼の笑顔には勝てる気がしない。


「少しでも緊張がほぐれたかな?」

「はいありがとうございます。平野さんにはいつも助けてもらってばっかりでなんか申し訳ないです」

「俺は何もしてないよ、雛ちゃんの実力だよ」


 どうしてこの人こんなにも私のことを簡単に操るのだろう。

 彼に喜んでもらえるなら、彼が私の歌を聞いてくれるのなら全力で難題に挑んでやろう。


「そろそろ出番なので、本当にありがとうございました」

「楽しみにしてるね、俺は戻るよ」


 手を振って戻って行く平野さん。

 彼が見えなくなるまで見送ると再度手に持っていたマイクを握りしめる。

 こんな気持ちに気づいてしまってもいいのだろうか。

 でもきっと誰にも言えない。
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