花は踊る 影は笑う~加賀見少年の非凡なる日常~
◆加賀見少年の日常
「なあ……やっぱり私は、居ない方がいいよな?」
少し長めの前髪の下、黒い瞳が伏せられる。
見れば見るほどにそっくりな顔。
だけど、やっぱり、違う。
「それは……」
声が詰まる。校庭を吹き抜ける風は涼しくて、暑いわけではない。
それなのに、喉はからからに乾いていて、上手く言葉が紡げない。
別に気にするような相手じゃないのに。
元々そこにいるはずがないといってもおかしくない相手なのに。
でも……。
そんな顔されてしまったら、どう言えばいいといいんだ。
頼むからそんな顔しないで欲しい。
そんな、そっくりな顔で……そんな泣きそうな顔しないで欲しい。
ああ……。
もしかすると俺も今、そんな顔しているのかな。
だったらそれは俺のせいかもしれないよな……。
意を決して、かさついてきた唇を開く。
本当は答えなんて簡単に言えたんだ。ちょっと、戸惑ってただけなんだ。
だから、さ。
「あのさ……」
伏せられていた瞼が微かに震えた。
ああ、もう。勘弁してよ。俺まで泣きたくなってきた。
でも、仕方ないよな……だってお前は――
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